ブリティッシュ・レーシングへの敬意
グランプリ・ハイトップのデザインは、壮絶で儚いフォーミュラ創世記のレーシングスタイルを想起させます。1950年代から60年代にかけての僅かな時間にだけ存在していたアイコニックなレーシングシューズをリサーチし、現代的解釈を加えて蘇らせました。 イギリス・グッドウッドの歴史に強い影響を受けて描き上げられたこの靴は、まさにブリティッシュ・レーシングへの敬意の結晶です。
物語のインスピレーションを巡る旅
グランプリ・ハイトップ(以下G.P. Hi)を表現する上で、ドライバーの足元にフォーカスしたイメージの蒐集は非常に広範囲に行いました。インターネットはもちろんのこと、そのリサーチは時に蚤の市の会場であったり、ジャンルや時代分けすらされていない古写真ケースの中、古雑誌のバックナンバーに掲載された広告にまで及びます。それらの情報の多くはレースの出走前などに撮られたいわば “幕間”の写真が大部分を占めています。そこには常に危険と隣り合わせであったレーサーの面影だけではなく、一人の紳士としての魅力的な表情を垣間見ることができました。
Molyslip trophy race at Snetterton. 1962 ©︎alamy
中でも特徴的なインスピレーションを受けたイメージをご紹介しましょう。1962年9月にイギリス東部のスネッタートンサーキットで行われたモリーシップ・トロフィーでの1枚です。キュートなレーシングドライバーのクリスタベル・カーライルを囲むジャック・ブラバムとロイ・サルヴァドーリ。タイドアップして象徴的なヘルメットを抱えるグラハム・ヒル。そして写真左で憂いのある表情を浮かべるトニー・マッグスは、甲を強く押さえつけるために靴紐でヒールタブごと周回して結んでいます。写真右ではコンビネーションカラーのドライビングブーツを着用した笑顔のトニー・マーシュ。(レーシングスーツに着替えたばかりなのでしょうか?まだ左手にトラウザーを抱えています!)
ヘリテージを想起させるモティーフ
60年代当時のレーシングシューズのソールはゴム製ではなく薄いベンズと床革を貼り合わせた物であったり、ライニングがついていなかったりと非常に質素なものでしたが、オリジナルブラックモデルのG.P.Hiでは、細部のディテールを現代のライフスタイルに合わせて再編しています。アッパーには60年代ではまだポピュラーな技法であった植物タンニン鞣のロンバルディア・タンを使用。フロントトゥは、ネグローニの象徴的なディテールであるツイン・アイレットにデザインしています。またライニングには経年変化を楽しむことができるモーターハイドヴィンテージを使用し、ラグジュアリーで日常でも使いやすい仕様にアレンジを施しています。そして、ひときわ特徴的なシダーウッドカラーのヒールガードは、スニーカーだけでなく当時のドライビングチャッカブーツやスリッポンでも採用されていた定番のカラーです。
新木型が実現したナロースタイル
G.P.Hiはラグジュアリーさが際立つ素材使いによって、ヒストリック・レーシングスタイルだけに止まらない洗練されたスタイリングを演出しています。着用すると、微かに軋み合うロンバルディア・タンの独特な足馴染みと肉厚のクッションインソールにより、アーチを起点として足全体が程よい圧迫感に包まれます。本モデルのためにデザインされた新しいラストGRSは、足の筋肉を立体的に逃すエスシェイプ構造を採用。従来のスニーカー型より細身のシルエットですが、心地よい指先の可動空間が確保されています。
洗練された現代的解釈
G.P.Hiのラインナップはオリジナルカラーだけに止まりません。現代のレーシングシューズの履き心地を彷彿とするしなやかなオイルスエードを採用したモデルは、ヴィンテージ感と履き心地のバランスが良く、上品で都会的なスタイルを演出することができます。また、ハイトップ・スニーカーならではの着脱の煩わしさを解消するゴム製のシューレースが標準搭載され、現代ならではの利便性の高い仕様と言えます。
天候を選ばないファブリックモデル
そして、防水コーティングを施された頑強なコーデュラファブリック®︎と、強い撥水性を誇るネグローニ・ウェットトラックカーフを採用したコンビネーション・アッパーのモデルは天候を意識しないタフな使用を想定してデザインされています。生地についた汚れは水を含んだ布で拭き取ることができるので、気兼ねなく日常使用が可能です。もちろんそれは、グッドウッドサーキットへと続く、“朝露でぬかるんだ芝生”を歩く時でも例外ではありません。