コンセプトよ、ピュアであれ。
優れたデザインとは、総じてピュアな曲線の集合体であるべきである。 ドライビング・チャッカブーツであるクワトロの佇まいは、決して華美ではありません。しかし、わずか5枚から構成されたシンプルなパターンデザインの中には、ドライビングシューズが必要とするコンセプトを過不足なく有しています。
Graham Hill at Goodwood Circuit. 1966 ©︎alamy
ドライビングシューズの源流とは
1960年代後半のF1において、ミッドトップのチャッカブーツがレーシングシューズとしてごく一般的に使われていたことをご存知でしょうか?写真に映る精悍なグラハム・ヒルを始め、ジム・クラーク、ジャック・ブラバムなど、60年代を代表とする華やかなレーサーがイギリス製のレーシング・チャッカブーツを使用していた記録が残っています。
ごくシンプルな5枚の構成パーツ
クワトロのアッパーは、主にヴァンプ、2枚のアイレット、ヒールガード、サイドガードから成る5枚のパーツで構成されています。一見シンプル過ぎる様にも見えますが、細部まで計算されたバランスが、クワトロならではの絶妙なフィット感を生み出します。
アイレットは “クワトロ”
クワトロ(数字の4) の名前は、この4つのアイレットから由来します。少ないアイレットで甲を支えるシンプルな構造によって、履き口を簡単に大きく開閉することが可能です。また、このアイレットと並行に縫われたアイソレーションステッチは、60年代のレーシングブーツのデザインにも見られる伝統のモティーフです。
日常に溶け込む上品な佇まい
一見ドライビングシューズには見えない清楚なスタイリングのクワトロですが、足を通すと、爪先から甲にかけてを一枚革でしっかりと捉え、ドライビングシューズ然としたしっかりとしたホールド感に包まれます。ネグローニならではのドライビングフィロソフィーを体現している随一のモデルと言えます。
相反する個性を持ったトスカーナ・レザーのどちらを選ぶか
クワトロを考える上で最も難しい問題は、“相反する個性”を持つ2種類のレザーのどちらかを選ばなくてはいけない点かもしれません。素材選びによって、スタイルだけではなく、のちのフィットにも大きく影響を与えるからです。これらの美しいレザーは、どちらもネグローニが長年信頼するイタリア・トスカーナの老舗コンチュリアで仕上げられています。 しっかりと肉厚で長めの毛足が美しいトスカーナ・スエードで仕上げられたクワトロは、オーセンティックなスタイリングに加え、豊かな剛性感を感じることができます。履き始めはハリの強さを感じるものの、履き込んだスエードは徐々に柔らかさが増し、ヴィンテージ感漂う随一の履き心地へと育っていきます。 また反対に、細やかなエイジングバーニッシュで仕上げられるスモーキングカーフは、レザー全体に浸潤したホワイトワックスによってしっとりと柔らかく、足を通したその瞬間から滑らかなフィットを感じることができます。この革ならではの履き心地と味わい深さは言葉では言い表すことができません。 この素晴らしいレザーのどちらを選ぶかは、一枚革を足全体で感じることが出来るクワトロならではの悩みでもあります。
コンセプチュアルな曲線を描くトップライン
クワトロのトップライン(履き口の線)は、甲の頂点からヒールに向かってなだらかに後傾し、ヒールの上で大きくえぐられています。これは、ペダルワークの際にかかとの腱に干渉しない様にするためのデザインです。この特徴的なトップラインが、オーソドックスなチャッカブーツには見ることの出来ないアイコニックな表情を生み出しています。 ちなみに、2枚目のグラハム・ヒルが写っていた写真と同じ場所である、イギリス グッドウッド・サーキットでは、毎年9月に60年代当時の雰囲気を再現したGoodwood Revivalというブリティッシュ・レーシングイベントが行われ、ネグローニは現在日本から出店を許されている唯一のブランドでもあります。 クワトロは、ドライビングシューズのデザインヘリテージを語り継いでゆく子孫の役割をも担っているのです。